前回「技術士」についてご紹介しました。今回は技術士にはいろいろな部門(種類)があるということを知っていただくとともに、部門の違いによる活躍の場の違いについても触れていこうと思います。
技術士には、総合技術監理部門と、20の専門技術部門があり、合計で21の部門に分かれています。
専門技術部門(20部門)
専門技術部門は、特定の専門分野に特化した知識と応用能力が問われます。
- 機械部門
- 船舶・海洋部門
- 航空・宇宙部門
- 電気電子部門
- 化学部門
- 繊維部門
- 金属部門
- 資源工学部門
- 建設部門
- 上下水道部門
- 衛生工学部門
- 農業部門
- 森林部門
- 水産部門
- 経営工学部門
- 情報工学部門
- 応用理学部門
- 生物工学部門
- 環境部門
- 原子力・放射線部門
総合技術監理部門
総合技術監理部門は、上記の専門技術部門とは異なり、複数の技術分野を横断的に管理・監理する能力が問われる技術士の最上位資格です。
プロジェクト全体を俯瞰し、以下の5つの管理技術を総合的に活用して、業務の最適化を図ります。
- 経済性管理: 費用対効果やコスト管理
- 人的資源管理: 組織や人材の育成・活用
- 情報管理: 情報の収集、共有、活用
- 安全管理: 労働安全や災害リスクの管理
- 社会環境管理: 環境保全や社会との調和
この部門の資格を取得することで、技術的な専門知識に加え、プロジェクトマネジメント能力が証明されます。
ちなみに、技術士の環境部門には、第二次試験で選択する4つの専門分野があります。これらは、環境部門の主要な業務内容に直結しています。(他の分野にもあると思います)
1. 環境保全計画
環境の現状を分析し、将来の変化を予測した上で、環境保全のための計画を策定する専門分野です。具体的な業務として、環境情報の収集・分析や、持続可能な利用に向けた計画の立案などを行います。
2. 環境測定
環境中の物質(大気、水、土壌など)の測定や分析、監視を専門とする分野です。測定計画の立案、実際の分析作業、そして得られたデータの解析と評価を行います。環境汚染の状況を科学的に把握することが主な役割です。この分野の方は環境計量士も取得されている方が多いです。
3. 自然環境保全
自然生態系や野生動植物、風景などの保護、再生、修復に特化した分野です。生物多様性の保全、外来種対策、自然とのふれあいを推進するための施設整備など、自然環境そのものに関わる業務を担います。
4. 環境影響評価
大規模な開発事業などが環境に与える影響を事前に調査、予測、評価する専門分野です。環境保全のための措置を検討し、その効果を評価することで、事業と環境の調和を図る重要な役割を果たします。
私の登録している環境部門の専門分野は4の環境影響評価です。この専門分野に近いものとしては建築部門の建設環境があります。
しかし、技術士の「環境部門」の環境影響評価と「建設部門」の建設環境は、どちらも環境問題を扱いますが、その専門性と役割に明確な違いがあります。
環境部門(環境影響評価)
この専門分野は、事業が環境に与える影響を多角的に、かつ総合的に評価・分析することに特化しています。
- 専門性: 法律に基づいた環境アセスメント(環境影響評価)の全プロセスを専門とします。
- 役割: 大気、水質、騒音、景観、動植物、廃棄物、温室効果ガスなど、複数の環境項目を横断的に調査・予測及び評価し、その結果に基づいて、環境保全のための保全措置や計画を策定します。保全措置には計画の変更も含まれます。
- 業務範囲: 特定の建設技術にとどまらず、あらゆる開発事業(例:滑走路の新設・増設及び延伸、道路整備、風力発電所など)が環境に与える影響を評価します。
少し興味がある方は、環境省の環境影響ネットワークや一般財団法人日本環境アセスメント協会で詳しく説明されていますのでそちらを見てみるといいと思います。ちなみに、アセスメント協会ではアセスメント士という資格の認定も行っています。
建設部門(建設環境)
この専門分野は、建設事業に伴う環境問題に特化して対応することに重点を置いています。
- 専門性: 建設工事の計画・施工段階で生じる環境問題(例:騒音・振動、建設発生土の処理、生態系への配慮)への対策を専門とします。
- 役割: 建設事業の遂行と環境保全を両立させるために、工事現場における具体的な対策技術や、自然環境への影響を最小限に抑えるための技術的知見を提供します。
- 業務範囲: 建設事業という特定分野の中で、環境保全技術の適用や管理を行います。
主な違いのまとめ
| 比較項目 | 環境部門(環境影響評価) | 建設部門(建設環境) |
| 主たる役割 | 総合的な環境影響の予測・評価 | 建設事業に特化した環境対策・技術 |
| 対象範囲 | あらゆる開発事業 | 建設事業のみ |
| 視点 | 複数の環境項目を横断的に評価 | 建設工事に伴う特定項目の対策 |
簡単に言うと、「環境部門(環境影響評価)」が事業全体の環境への影響を総合的に評価する専門医だとすると、「建設部門(建設環境)」は建設工事という特定の手術に伴う環境リスクを管理する専門医ともいえます。
今、この記事を読んでいて、どちらの資格を取るべきか悩んでいる方へ
建設部門の技術士の数は環境部門の数より圧倒的に多いですし、建設コンサルタントでは建設環境の方が需要があるように思います。環境影響評価の調査、予測及び評価という一連に携わりた方は環境部門でもよいと思います。建設環境とアセスメント士を取るというのもアリだと思います。
少し、参考になりましたか?環境部門の技術士さんというのはとても少ないですし、私が受験した時も情報がとても少なかったです。今後は一次試験や二次試験のことについても情報提供していけたらなと思います。

