水素(H2)

化学物質

水素とは

水素は、原子番号1の元素で、元素記号はHです。宇宙で最も豊富に存在する元素で、地球上でも水(H₂O)やメタン(CH₄)など、さまざまな物質の構成要素として存在します。

常温・常圧では、無色・無臭の気体で、燃焼しても水しか生成しないため、クリーンなエネルギー源として注目されています。

水素の作り方(製造方法)

水素は単体で存在することが少ないため、工業的に製造する必要があります。

  • 化石燃料から: 天然ガスや石油を水蒸気と反応させて水素を取り出す方法が一般的です。現在、最も安価に大量生産できますが、製造過程で二酸化炭素(CO₂)を排出します。
  • 水の電気分解: 水に電気を通して水素と酸素に分解する方法です。再生可能エネルギー(太陽光、風力など)を利用すれば、製造過程でCO₂を排出しない「グリーン水素」を製造できます。

水素の主な用途

水素は、燃料だけでなく、さまざまな産業で幅広く利用されています。

1. エネルギー源

  • 燃料電池: 水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を取り出す装置です。燃料電池車(FCV)や家庭用燃料電池(エネファーム)などに使われます。
  • 水素発電: 天然ガスに水素を混ぜて燃焼させたり、水素だけで燃焼させたりして発電する方法です。

2. 化学工業

  • アンモニア製造: 肥料の原料となるアンモニア(NH₃)を製造する際の主要な原料です。
  • 石油精製: 原油からガソリンや軽油を精製する過程で、不純物を取り除くために水素が使われます。
  • メタノール製造: バイオ燃料やプラスチックの原料となるメタノール(CH₃OH)を製造する際の原料です。

3. その他

  • 半導体製造: 半導体の洗浄や冷却に高純度の水素が使われます。
  • ロケット燃料: 液体水素は、極めて高いエネルギー密度を持つため、宇宙ロケットの燃料として利用されます。

先述したように水素は、クリーンなエネルギーとして注目を集めており、脱炭素社会を実現するための重要なエネルギー源として期待されています。

脱炭素とは

脱炭素とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガス(特にCO2​)の排出量を実質ゼロにすることを目指す取り組みです。火力発電所や自動車、工場など、多くの分野で化石燃料(石炭、石油、天然ガス)が使われており、これがCO2​排出の主な原因となっています。

なぜ水素が脱炭素に貢献するのか

水素は、燃焼しても水(H2​O)しか発生せず、CO2​を排出しません。この性質から、以下のような形で脱炭素に貢献します。

1. クリーンな燃料として

  • 燃料電池車(FCV)や燃料電池バス: 走行中にCO2​を排出せず、水だけを排出します。
  • 水素発電: 火力発電の燃料を水素に置き換えることで、CO2​の排出量を大幅に削減できます。

2. 再生可能エネルギーの貯蔵・輸送

  • 太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、天候によって発電量が変動します。発電量が余ったときに、その電気を使って水を分解し、水素を製造できます。
  • 製造した水素は貯蔵・輸送が可能なため、必要なときにエネルギーを取り出して利用できます。これにより、再生可能エネルギーを効率的に活用し、化石燃料への依存を減らすことができます。

水素製造とCO2​排出の関係

水素を製造する際、CO2​の排出量によって、水素の種類が分類されます。

  • グレー水素: 化石燃料(天然ガスなど)を原料とする方法。製造過程でCO2​を排出します。現在の水素製造の主流です。
  • ブルー水素: グレー水素と同じ方法で製造しますが、発生したCO2​を回収・貯留(CCS)します。
  • グリーン水素: 再生可能エネルギーを使って水を電気分解して製造します。製造過程でCO2​を全く排出しません。脱炭素社会の実現に向け、最も期待されている水素です。

このように、水素はCO2​を排出しないエネルギー源として、脱炭素社会への移行を加速させる鍵を握っています。

日本の港湾に建設する水素ステーション計画

日本の港湾では、船舶や荷役機械の燃料としての水素利用を見据え、水素ステーションの整備・計画が進められています。これは、港湾の脱炭素化を目指す「カーボンニュートラルポート(CNP)」形成の一環として、国や自治体、民間企業が連携して取り組んでいます。

主な計画と事例

  • 神戸港: 2025年までに、世界初となる液化水素の海上輸送サプライチェーンの商用化実証拠点「Hy touch 神戸」を整備する計画です。豪州から液化水素を輸送し、港湾で利用する実証実験が行われています。
  • 川崎港: 水素を液化せず、常温・常圧で輸送する技術(MCH:メチルシクロヘキサン)を用いた大規模水素サプライチェーンの実証拠点となっています。
  • 横浜港: 2015年に、全国の官公庁として初めて自立型水素燃料電池システムを導入し、水素利用の先進事例として知られています。
  • モバイル式水素ステーション: 港湾への水素配管などの大規模な追加設備を抑えるため、トラックに搭載可能なモバイル式水素ステーションの開発も進められています。

法改正と今後の展望

2022年には、港湾での水素ステーション整備を促進するため、港湾法が改正されました。これにより、土地利用規制が緩和され、港湾における水素の供給・利用がより円滑に行えるようになりました。

今後は、液化水素運搬船の大型化や、船舶向け水素バンカリング(燃料供給)設備の整備など、港湾が水素サプライチェーンの国際的な拠点となるためのインフラ整備が加速すると見られています。

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