都市鉱山とは、都市で使われなくなった製品(廃棄された電子機器など)の中に含まれる、金や銀、レアメタルといった貴重な金属資源のことを、鉱山に見立てて表現した言葉です。
なぜ「都市鉱山」と呼ぶのか?
スマートフォン、パソコン、デジタルカメラ、家電製品などには、微量ながら多くの貴重な金属が使われています。これらを大量に集めてリサイクルすることで、天然の鉱山から採掘するのと同じくらい、あるいはそれ以上の量の資源を確保できる可能性があります。日本では、天然の鉱山から採掘できる金の埋蔵量よりも、都市鉱山に含まれる金の埋蔵量の方がはるかに多いと推定されています。
都市鉱山のメリット
- 資源の有効活用: 枯渇が懸念される貴重な天然資源を、繰り返し利用できます。
- 環境負荷の低減: 新たな採掘に伴う環境破壊、CO2排出、エネルギー消費を抑えられます。
- 経済的メリット: 天然資源の輸入に頼る必要が減り、資源の安定確保につながります。
身近な都市鉱山の例
- スマートフォン: 1台あたりに、金、銀、銅、パラジウム、リチウムなどが含まれています。
- パソコン: CPUや基板に金や銀が使われています。
- ゲーム機: 基板や配線に、金や銅などの金属が使われています。
このように、私たちの身の回りにある多くの電化製品が、実は貴重な「都市鉱山」なのです。その中でもやはり注目は「金」ですよね。近年、金の価格も高騰しており注目が集まっている鉱物の1つとも言えます。金の回収方法は、主に湿式製錬と乾式製錬の二つに大別されます。
乾式製錬(火を用いる方法)
鉱石やスクラップを高温の炉で溶かし、不純物を取り除く方法です。他の金属(特に銅)の精錬プロセスと組み合わせて行われることが多く、その過程で金が副産物として回収されます。
- プロセス例:
- まず、金や銀を含む鉱石を溶鉱炉などで加熱し、銅を製錬します。
- その際、金や銀は溶けずに沈殿物(陽極泥)として集まります。
- この陽極泥から、さらに化学的な処理を施して金を分離・回収します。
この方法は、一度に大量の原料を処理できる利点があります。
湿式製錬(化学薬品を用いる方法)
酸やアルカリなどの薬品を使い、金を選択的に溶液に溶かしてから回収する方法です。
- プロセス例:
- 粉砕した鉱石やスクラップを薬品(例:シアン化ナトリウムや王水など)の入った水溶液に浸します。
- 金が溶液中に溶け出した後、亜鉛などの金属を加えて金だけを沈殿させたり、電解によって回収したりします。
この方法は、低品位の鉱石からも効率的に金を取り出せるのが特徴です。
その他の新しい回収方法
近年、環境への配慮や効率化を目指した新たな技術が開発されています。
- 温度応答性ポリマー: 特定の温度で金と銀のみを溶液から粒子として沈殿させ、回収する技術。
- バイオソープション: 微生物の吸着作用を利用して、廃液から金やパラジウムを効率的に回収する技術。
- AI・ロボットによる選別: AI画像認識や特殊なセンサーを使って電子機器の部品を自動で解体・選別し、貴金属の回収率を向上させる技術。
これらの技術は、主に携帯電話やパソコンといった「都市鉱山」からの金リサイクルで活用されています。その中でも環境に低負荷な方法として注目の集まっているバイオソープション:をご紹介したいと思います。
バイオソープションの基本的な仕組み
バイオソープション(Biosorption)とは、「生物吸着」とも呼ばれ、特定の微生物やその生体物質が、溶液中の金属イオンなどを吸着・保持する現象を利用した技術です。
この技術では、微生物が生きているかどうかは関係ありません。微生物の細胞壁や細胞膜には、マイナスに帯電した官能基(リン酸基、スルホ基、カルボキシル基など)が豊富に存在します。溶液中の金などの金属イオンはプラスに帯電しているため、このマイナスの官能基と静電気的に引き合い、吸着することで回収されます。
この方法は、特に希薄な(濃度の低い)廃液からでも金属を効率的に回収できる点が大きな特徴です。
バイオソープションの利点
- 高い選択性: 特定の微生物を使うことで、様々な金属が混ざった溶液から、目的の金やパラジウムだけを選択的に吸着させることができます。例えば、銅が大量に含まれる廃液からでも、金とパラジウムのみを効率的に回収する研究が進んでいます。
- 環境負荷の低減: 従来の化学薬品(シアンや王水など)を使用しないため、環境への負荷が少ないクリーンな回収方法です。
- 低コスト: 微生物は、安価な栄養源で増殖できるため、高価な吸着材を新たに製造する必要がありません。
実際の回収プロセス
実際の回収プロセスは、主に以下のステップで進められます。
- 吸着: 金イオンを含む廃液に微生物(例:パン酵母、温泉藻類など)を加えます。微生物の表面にある官能基が金イオンを吸着します。
- 分離: 金を吸着した微生物を、遠心分離などで廃液から分離します。
- 回収: 回収した微生物から、酸性溶液などで金イオンを溶出させ、再び回収します。
この技術は、特に「都市鉱山」と呼ばれる電子機器スクラップからの貴金属回収において、有望な手法として期待されています。
日本国内での調査・研究
日本の近海には、海底熱水鉱床が多数存在することが確認されています。
- 青ヶ島沖での発見: 2015年、東京大学の研究グループが伊豆諸島青ヶ島沖で海底熱水鉱床を発見しました。2016年には、その鉱石中に高濃度の金が含まれていることが報告されました。
- バイオソープション技術の応用: 2018年には、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、この海底熱水鉱床から採取した岩石を使い、バイオソープション(微生物の吸着作用を利用した技術)によって金の回収に成功したと発表しました。これは試験的な回収であり、商業化には至っていません。
海外のプロジェクト
世界各国でも深海資源の探査が進められています。
- パプアニューギニアの「Solwara 1」プロジェクト: かつてカナダのノーチラス・ミネラルズ社が主導し、世界初の商業採掘プロジェクトとして注目されました。しかし、資金調達の難航や政府との対立、そして環境問題への懸念から、2019年に事業が破綻しました。
商業化に向けた課題
現在、海底熱水鉱床からの商業採掘が実現していない主な理由は、以下の通りです。
- 高コスト: 水深1,000メートルを超える深海での掘削・回収には、莫大なコストがかかります。回収される金の価値が、このコストを上回る必要があります。
- 環境への影響: 熱水噴出孔周辺は、独自の生態系を形成しています。採掘活動が、これらの生態系に与える影響が懸念されており、環境保護団体などからの強い反対があります。
- 法整備の遅れ: 国際水域における深海資源の採掘に関する国際的なルール(法整備)が、まだ十分に整っていません。
これらの課題を克服するための技術開発や国際的な議論が、現在も続けられています。海底熱水鉱床以外にも、温泉水にも地熱活動によって地下の岩石から溶け出した様々な金属(金、銀、リチウムなど)が、非常に低い濃度ながら含まれています。このため、温泉水は「地上の熱水鉱床」として、研究者や企業から注目されています。
主な研究事例と技術
温泉水からの金回収の研究は、主に以下の技術に焦点を当てて進められています。
- 吸着材の利用:
- 温泉水に特殊な吸着材(イオン交換樹脂、活性炭など)を流し、選択的に金イオンを吸着させる方法です。吸着材に金を吸着させた後、溶出処理を行うことで金を取り出します。
- 2013年には、鹿児島県の山川温泉の湯から、吸着材を使って金や銀を回収する技術を開発したという研究発表がありました。
- バイオソープション:
- 海底熱水口の事例と同様に、微生物の吸着作用を利用する研究も行われています。温泉地には、高温や高濃度の金属に耐性を持つ微生物が多数生息しており、これらの微生物が金の回収に役立つ可能性があります。
- 地熱発電との組み合わせ:
- 地熱発電所の廃熱水を利用して、副産物として金属を回収する研究も進められています。発電に利用した後の熱水から金を回収できれば、発電事業の収益性が向上し、一石二鳥の効果が期待できます。
商業化に向けた課題
温泉水からの金の回収が商業化に至っていない主な理由は、以下の通りです。
- 超低濃度: 温泉水に含まれる金の濃度は非常に低く、リットル当たり数ナノグラム(10億分の1グラム)程度です。莫大な量の温泉水を処理しないと、わずかな金も回収できません。
- 回収コスト: 温泉水を大量に処理するための設備や、高性能な吸着材にかかるコストが、回収できる金の価値を上回る可能性があります。
- 環境規制と利水権: 温泉は観光資源や地域住民の生活に深く関わるため、勝手に温泉水を採取したり、排水を処理したりすることはできません。環境規制や利水権の問題をクリアする必要があります。
現在、多くの研究開発が続けられていますが、これらの課題を克服しない限り、大規模な商業化は難しいと考えられています。
まとめ
都市鉱山とは、使われなくなった電子機器などに含まれる貴重な金属資源を、まるで天然の鉱山のように見立てた言葉です。日本の都市鉱山には、天然の鉱山をはるかに上回る量の金が眠っているとも言われています。
- 都市鉱山のリサイクルは、単なるゴミの再利用ではありません。
- 資源の安定確保: 限りある天然資源の枯渇を防ぎ、輸入に頼りがちな資源を国内でまかなうことができます。
- 環境に優しい: 新しい鉱山を掘る必要がないため、環境破壊やエネルギー消費、CO2排出量を大幅に減らすことができます。
都市鉱山から金属を回収する方法は、主に2つあります。
- 高温で溶かす「乾式製錬」
- 薬品で溶かす「湿式製錬」
私たちが不要と思っている電化製品を集めると、大量の金が回収されます。自分で金を回収したいと思っている方もいるかもしれません。私も基板からの金抽出を試しました。その時の経験からわかったことは別の記事に書きたいと思います。

